症状・治療について
クエスチョンカード
[2024.02.01] 第23回認知行動療法学会参加new


2023年12月1~3日に広島県医師会館で開催された第23回日本認知療法・認知行動療法学会へ参加しました。今年は広島大学精神神経医科学教室岡本泰昌教授が大会長を務め、広島県医師会館で行われました。

シンポジウム9;第三世代認知行動療法の臨床での活用では広島大学精神神経医科学の神人蘭先生による「行動活性化療法の臨床への応用」の発表がありました。第三世代の認知行動療法の一つと言われている行動活性化療法では、負の強化随伴性に焦点を当てて回避行動の減少に注目すること、行動が生じる文脈や行動の機能的な側面を重視すること、自然な強化子を受ける行動を増やすために価値を明確化することであり、気分に依らず価値に沿った代替行動を意識的に選択して、実験的に行動しその結果を評価するということを繰り返していくことが必要です。抑うつ症状を呈すると、短期的に楽な行動を選択しやすい傾向があり、患者本人は回避によって一時的に楽になるので回避を適切な対処方法として考えてしまうことが多く、回避行動が長期的に抑うつ症状を維持や悪化させる結果となっていることに気づいていない場合も多いため、患者が何を回避し今の生活パターンになっているか、そしてどのように生活を変化させていくのが良いのかについて機能分析を行う必要があり、臨床応用する際には難しく感じ場面があります。行動活性化は比較的単純な原理や治療構造であるので容易に訓練しやすく、様々な臨床場面で広く普及できる可能性を持っています。まずは快活動を標的とした従来の行動活性化をまず行い、奏功しない場合には回避行動を取り扱う行動活性化に移行することを推奨している、とのことでした。

市民公開講座第2部では大野研究所の大野裕先生による「どこにでもある認知行動療法:生活のなかで自然にしている営み」を拝聴しました。認知行動療法は常識の精神療法と言われ、だれもがストレス状況で使っている方法を効果的にまとめてストレス状況にある人に提供するものです。強すぎるストレスは心身の不調を引き起こしますが、ストレスを適度にコントロールできれば自分を引き出すこともでき、そのようなストレスに対処しその体験を生かして自分らしく起きていくことが重要です。自分らしく生きていくコツとして「3つのC」と呼ぶ視点が紹介されました。①物の受け取り方や考え方を意味する認知(cognition)②環境や心を自分が主体性を持ちながらコントロールしているというコントロール(control)感覚、③他の人ととわかり合い助け合える人間的つながりコネクション(connection/communication)の3つが基本的な概念の頭文字をとったものです。つまりストレスを受けた時、まわりの人たちとお互い助け合えるような人間的つながりを大切にしながら、柔軟で幅広し視点を持って、何が大切かを見失わないで生きていくことができれば、前向きの気持ちになってくるし、いろんなことに挑戦する力もわいてくる、とのことでした。

明日からも最新の知見を当院通院患者さまへお伝えしていきたいと思います。

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[2024.01.08] 広島精神神経学会参加new


2023年12月9日に開催された第443回広島精神神経学会へ参加しました。今年は一般演題のみで同門の先生方より7題症例報告がありました。

広島大学病院の柴田昌紀先生による「発達障害を持つ進行がん患者2例に対する緩和ケアの経験」では、想像力の障害やこだわり、衝動性といった特性から、がん診療において医療者との円滑なコミュニケーションが取れず、適切な治療やケアが受けられないといった問題を抱えることが多い現状が報告されました。とりわけ生命を脅かされる場面に直面すると、これまでの人生で最も大きなストレスを感じているはずであり、発達障害の特性が先鋭化していることで、より一層コミュニケーションが困難な状態となっており、緩和ケアの現場において、発達症を持つ患者の特性にあわせてサポートをどのように行っていくべきかを考察されていました。

草津病院の松本洋一郎先生による「草津病院におけるクロザピン使用の現状と課題」では、現在治療抵抗性統合失調症に対して唯一適応を有しているクロザピンの使用実績などの報告がありました。本邦では2009年より使用が開始され、同院でも2012年より導入されており、これまで延べ150名以上の患者に投与され、症状の改善と継続率の高さを維持することができているとのことで、治療抵抗性統合失調症の長期予後の改善に果たす意義は大きいと言えます。投与例における投与量、導入理由、有効性、患者自身の満足度などの詳細なデータが示され、今後の改善点やさらなる普及に向けた課題などについて考察されました。

明日からも最新の知見を当院通院患者さまへお伝えしていきたいと思います。
[2023.12.01] 第119回日本精神神経学会学術総会参加②


2023年6月22-24日に開催された第119回日本精神神経学会学術総会にWebで参加しました。

シンポジウム64「うつ病治療への次なる期待」では熊本大学大学院生命科学研究部神経精神医学講座の竹林実教授の司会で、従来の治療で改善しない治療抵抗性うつ病に対するあらたな戦略についても4講演がありました。広島大学精神神経医科学教室の岡田剛先生による「fMRIニューロフィードバックを用いたうつ病治療の可能性」では、機能的磁気共鳴画像法であるfunctional MRIを用いてニューロフィードバックと言われる、個人の脳情報を検出し、本人が知覚できる感覚刺激に変換してフィードバックすることで脳の状態を自己制御する治療法の開発についてのお話でした。うつ病に対するfMRIニューロフィードバックは、扁桃体、顕著性ネットワーク、左背外側前頭前野、ポジティブな画像に対して賦活する領域などを標的とし、互いに相関を持つ脳領域同士の脳活動の時間変動の相関(機能的結合)をスコア化しフィードバックする機能的結合ニューロフィードバックも開発されています。脳神経刺激技術を基盤とした治療法と比較してニューロフィードバックは治療への能動的なかかわりが必要であり、治療への動機づけが得られない症例での実施が困難であるなどうつ病治療に応用する際には限界もあるが、能動的な自己制御の成功は自己効力感を高める利点があり、学習した方略を必要時に用いることで効果が長期間維持されることも期待できるとのことでした。

明日からも最新の知見を当院通院患者さまへお伝えしていきたいと思います。
[2023.11.01] 第119回日本精神神経学会学術総会参加①new


2023年6月22-24日に開催された第119回日本精神神経学会学術総会にWebで参加しました。日本の精神科の学会のなかで最大規模の学会ですので、シンポジウムだけでも100以上あり、すべてを視聴することはできませんでしたが、最新の知見を得ることができました。

シンポジウム2「今後期待されるうつ病への新規治療法について考える」では、現在の標準的な治療を行ってもうつ病患者の約1/3が難治化すると言われており、またうつ病のバイオマーカーが乏しいため診断医苦慮したり、再発・再燃率が高い疾患で就学や就労など当事者の社会機能、そして人生に強い影響を与えている現状の問題点が提起され、基礎的介入(支持的精神療法と心理教育)、抗うつ薬、電気けいれん療法、認知行動療法など2016年に発表された日本うつ病学会によるうつ病治療ガイドラインで推奨されているもの以外の新しいうつ病治療法として、ケタミン治療、精神展開剤、炎症標的新規抗うつ薬、磁気けいれん療法(MST)などの開発の報告がありました。杏林大学精神神経学教室の櫻井準先生による「ケタミン治療」の講演では、麻酔薬フェンサイクリジンの誘導体で新たな抗うつ薬として注目されているケタミンについての最新の知見が報告されました。2000年にプラセボ対照二重盲検比較試験によって抗うつ作用を有することが報告され、2010年代に適応外ながらアメリカで爆発的に使用が増え、ラミセ体であるケタミンからS体のみを抽出した薬剤エスケタミンが開発され、2019年に正式に抗うつ薬としてアメリカ食品医薬品局に承認されました。ケタミンは①即効性、②希死念慮への効果、③治療抵抗性うつ病への効果が特徴で、大規模対照無作為化比較試験などでケタミンの単回投与で希死念慮の有意な減退が4時間後には認められ、少なくとも6週間後まで持続し、他のどの治療よりも治療開始2週間後において優れた抗うつ効果が示されました。ケタミンの主な副作用は、投与中の乖離症状、眠気、不安感、めまい、吐き気などですが、いずれも投与から2時間以内に消失するため、治療中断には結び付きにくい。本邦でも治療抵抗性うつ病を対象としたケタミン治療の臨床研究が行われ始めており、効果を早期に予測するバイオマーカーの探索も進んでいる。今後当たらなうつ病の治療選択肢として使用されていくことが期待されている、とのことでした。

シンポジウム12「死別の精神医学」では名古屋市立大学精神科の明智龍男教授がコーディネーターとなり、それぞれ専門家の4人の先生方の講演がありました。広島大学病院精神科/緩和ケアチームの倉田明子先生よる「死別後うつ病、複雑性悲嘆の治療:遺族ケアガイドラインより」では、2022年に刊行された遺族ケアガイドラインを中心に説明されました。病因死による遺族のうつ病に対しては抗うつ薬の投与を提案するが、複雑性悲嘆に対しては抗うつ薬等の向精神薬は推奨しないことを提案しており、非薬物療法についてはその有効性を示す研究が複数存在し、個人精神療法、グループ療法、オンライン介入や手紙など様々です。複雑性悲嘆に対する治療法は未だ確立していないが、他紙社会を迎える我が国において、精神科医には悲嘆のプロセスや課題を考慮して、死別による精神疾患に対応することが求められている、とのことでした。

明日からも最新の知見を当院通院患者さまへお伝えしていきたいと思います。
[2023.09.13] イフェクサーSRシンポジウム参加


2023年7月15日に福岡で開催されたイフェクサーSRシンポジウムに参加しました。

講演1は福岡大学医学部精神医学教室講師衛藤暢明先生により「自殺予防外来・自死遺族専門外来について」では症例を交えて福岡大学での自殺専門外来の取り組みが紹介されました。多くは自殺予防だけでなく、残された自死遺族についても専門外来でフォローされ、目の前の患者さんは当然として、自死遺族にも寄り添う形を目指しておられます。これらの取り組みから一人でも多くの患者さんの自殺予防に繋げたいとのことでした。

講演2は杏林大学医学部精神神経科学教室准教授の坪井高嗣先生により「異質性・多様性に富むうつ病の当事者をどう支援していくべきか」では、異質性・多様性に富む患者さん当事者の望むリカバリーを目指し、なんらかの尺度を用いて残遺症状に注意し、再発を押さえながら寛解を目指し、当事者の求めるパーソナルリカバリーの改善が最も重要であるとのこで、そこに向けての取り組みが紹介されました。

明日からも最新の知見を当院通院患者さまへお伝えしていきたいと思います。

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[2023.08.01] 第442回広島精神神経学会参加


2023年7月8日、第442回広島精神神経学会へ参加しました。この学会もコロナ禍ではオンラインでの参加ばかりでしたが、久しぶりに現地開催に参加でき、同門の先生ともお会いすることができました。

一般演題のセッションでは若手の先生方より興味深い症例の報告がいくつかありました。呉医療センター精神科の長尾崇弘先生による「怠薬により手首と舌の自傷に至った統合失調症妊産婦の一例」では、妊娠により抗精神病薬を怠薬するようになり、自傷行為が続くため同院で入院治療を行った20代の統合失調症患者についての報告でした。精神疾患を合併した妊産婦の診療ガイドラインでは抗精神病薬による胎児の有害事象の増加や児の神経発達の遅れがあるという明確なエビデンスはないとされており、アリピプラゾール内服と疾病教育、内服の必要性を繰り返し説明することによって自傷行為はみられなくなったそうです。妊産婦に対する抗精神病薬の使用についての詳しい説明もありました。

広島市立舟入病院小児心療内科の池尻直人先生による「母との儀式行為を主症状とする強迫性障害男児の1例」では、弟の誕生や引っ越しのストレスから円形脱毛症や放尿、不潔恐怖や儀式行為が見られるようになった小学校中学年男児の報告でした。治療法として認知行動療法による確認行為を1日20回までに指導したり、精神力動的なアセスメントを通して、患児が幼少期から抱いていた母子関係をめぐる弟への葛藤や頻回の引っ越しに伴う母の苦悩、母の育児方針などが明らかとなり、それらが症状形成の背景にあると想定されました。脱毛・放尿では母の心を動かせなかったと感じ、もっと甘えたいとの欲求が確認行為を助長したと考えられ、母の理解と対応を引き出すことで患児の確認行為も減っていったとのことでした。

特別講演は「行政的な視点から見た広島の精神医療・福祉」をテーマに2題の講演がありました。前広島県立総合精神保健福祉センター所長の佐伯真由美先生より、「精神保健福祉センターの役割~精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築に向けて」の講演がありました。「保健」とは疾病の予防、早期発見早期治療、健康の保持増進することであり、「福祉」とは最低限の幸福と社会的援助を提供することであり、精神保健福祉センターはそれらを中心に活動する行政機関です。精神保健福祉センターは精神保健福祉法により都道府県及び政令市に1カ所設置を義務付けられた行政機関であり、精神医療審査会や自立支援医療・精神障害者保健福祉手帳審査会等の法定業務と並び、依存症やひきこもり等の複雑困難ケースの直接相談や、メンタルヘルス問題を抱える方々を地域で支援している方々のスキルアップや事例相談も行っています。令和4年精神保健福祉法の改正では精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築に向けて、従来に増して市町村の役割が重視されるようになり、多くの市町村を抱える「都市型県型」の精神保健福祉センターは保健所と協働して市町村へのバックアップを一層推進することが求められています。広島県は面積879㎡、人口282万人、政令都市の広島市、中核都市の呉市、福山市やその他の23市町があります。1950年精神衛生法が施行され、1987年に精神福祉法、1995年に精神保健福祉法と法律が改正され、その他、2003年発達障害、2006年自殺対策基本法、2013年にアルコール依存症、2016年にギャンブル依存症、2023年には認知症基本法が制定されています。

前広島市精神保健福祉センター所長の皆川英明先生より「広島市精神保健福祉センターの歴史と地域における役割について」では、広島市精神保健福祉センターは平成に入ってほどなく組織改編を受け、現在の富士見庁舎内に位置することになり、診療機能とデイケアを有することになったのは、精神分析センターを補完するという側面もありました。平成2年広島大学精神医学教室の3代目に就任した山脇教授が訴えておられたBio-Psych-Socialという3本の柱のPsychoの要として改変後の初代所長として衣笠隆幸先生が着任された。衣笠先生は広大医学部卒後県立広島病院で研修を終え、イギリスへ8年間留学され、東京でクリニックを開業していたが、山脇教授の推薦で平成5年~26年まで所長を務められました。平成27年からは皆川先生、令和4年からは朝枝先生が所長を務めておられます。広大精神科教室OBの故赤松先生の高価な絵画が多数飾られており、待ち合いや診察室の雰囲気をよくしてくれています。

明日からも最新の知見を当院通院患者さまへお伝えしていきたいと思います。
[2023.07.01] 第38回日本老年精神医学会春季大会参加


2023年6月17-18日、第38回日本老年精神医学会春季大会へ参加しました。コロナ禍ではオンラインでの参加ばかりでしたが、久しぶりに現地開催に参加でき、発表者や質問者の熱気が伝わってきました。「アルツハイマー病疾患修飾薬の社会実装をめぐって」のシンポジウムでは東京大学大学院医学系研究科神経病理学の岩坪威先生による「アルツハイマー病疾患修飾薬の実用化を踏まえた今後の認知症医療の展望」や他の4人のシンポジストの発表があり、アルツハイマー病疾患修飾薬の開発の経過や現状についてわかりやすく説明されました。

アルツハイマー型認知症の患者さんの死後脳を調べるとアミロイドβ蛋白という異常タンパクが高率に沈着していることから、2000年ごろよりアメリカでアミロイドβ蛋白を分解除去するような抗アミロイド抗体を治療薬とする大規模臨床観察研究AD Neuroimaging Initiative (ADNI) が行われました。日本でも2007年からJ-ADNIが実施され、537例のMCI(軽度認知機能低下)が登録・追跡され、MRI検査やアミロイドPET検査などの評価体制も全国的に確立されました。2023年にはアミロイドβ抗体医薬であるレカネマブがアメリカで迅速承認され、日本を含むグローバル第3相試験も終了し、本邦でもPMDAにより審査が行われているところです。実用化に長い年月を有した原因として、抗アミロイド抗体によるARIA (amyloid-related imaging abnormalities) と呼ばれる副作用があり、抗アミロイド抗体投与開始後比較的早期(3か月前後)におこることが多く、頭痛、錯乱、めまい、視野障害などが見られ、稀に死亡例もあります。ARIAとは脳浮腫や脳溝滲出液によるARIA-Eと、微小出血や脳表ヘモジデローシスが見られるARIA-Hがあり、脳血管アミロイド沈着との関連が原因と考えられており、アポE4保有者、治療前から多数の微小出血が認められる例、抗凝固薬や抗血小板薬使用例に多く見られ、定期的な頭部MRI検査によるモニタリングが必要です。治療としてはステロイドパルス療法や血漿交換療法、さらに症状に応じた治療(抗けいれん薬など)などが検討されます。

最後に大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室の池田学教授より、「認知症の精神科医療への影響と今後の展望」と題してアルツハイマー病の疾患修飾薬が上市された場合の精神科医の心構えや準備についてお話がありました。精神科医はアルツハイマー病の病態機序、各種バイオマーカー、疾患修飾薬の標的分子や期待される効果・限界・予想される副作用、副作用のモニタリングなどを熟知しておく必要があり、実臨床での投与が始まった場合はすでに注目されているARIA以外の副作用も慎重にモニタリングを続けること、MRIやアミロイドPETがある施設との連携、スクリーニング・診断・薬剤投与体制を連携機関との間で予め十分に協議しておくことも必要です。またアルツハイマー病疾患修飾薬はMCI段階から開始されるため、疾患の進行過程や予想される症状などの正確な告知ができるようになっておくことが重要で、治療中の不安や抑うつに対する精神的ケアも重要です。更には、疾患修飾薬の適応とならない患者さんや家族について、早期絶望に繋がらないように寄り添い、他の治療選択肢を提示し、議論を重ねて当事者が納得する支援を続けられるかが、精神科医としての力量を問われるところではないだろうか、とのことでした。

明日からも最新の知見を当院通院患者さまへお伝えしていきたいと思います。

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[2023.06.01] 第62回中国・四国精神神経学会総会参加②


(つづき)2022年11月19日、第62回中国・四国精神神経学会総会へ参加しました。興味深かった講演などをご紹介します。

医療法人山口病院副院長・日本栄養精神医学研究会会長の奥平智之先生による「栄養精神医学における亜鉛~メンタルヘルスは食事から~」のランチョンセミナーでは、生体内での亜鉛の役割や欠乏時の精神症状の出方、治療方法などを教えて頂きました。

生体内での亜鉛の役割:食べたたんぱく質から幸せホルモンと言われるセロトニンや睡眠ホルモンであるメラトニンを作る際、ビタミンB、D、鉄、マグネシウムとともに亜鉛が必要であり、ストレスから発生する活性酸素を解毒するSOD(スーパーオキサイドディスムターゼ)を強化したり、抗炎症作用、抗酸化作用のあるビタミンDを活性化させるなど、様々な役割があります。亜鉛が欠乏すると、味覚や嗅覚が鈍くなる、ネックレス等で皮膚炎になる、倦怠感、やる気がでない、爪に白い斑点がある、髪の毛が抜けやすい、風邪を引きやすい、傷の治りが悪い、加工食品やアルコールをよく取る、などの栄養チェックリストもあり、臨床現場では血液検査、爪や皮膚の診察、食事日記などで亜鉛不足を診断していきます。

亜鉛と精神症状:抗うつ薬と併用して1日25㎎の亜鉛を摂取していると、エビデンスグレードAで大うつ病性障害に有効性が認められ、うつ症状スコアを有意に改善させたり、抗うつ薬が少量で済んだり、睡眠が改善するなどのエビデンスが出ている一方、高齢者のうつ病患者で血清亜鉛濃度が低下していたり、刑事統合失調症男性の血中亜鉛が被犯罪者と比較して優位に低かったり、加害的な若い男性の血中銅/亜鉛日が高い、などのデータも見られます。

明日からも最新の知見を当院通院患者さまへお伝えしていきたいと思います。

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[2023.05.01] 第62回中国・四国精神神経学会総会参加①


2022年11月19日、第62回中国・四国精神神経学会総会へ参加しました。興味深かった講演などをご紹介します。特別講演1はStanford大学の篠崎元先生による「せん妄の臨床・脳科学へのブレークスルーを目指して-新機能はデバイス、エピジェネティクスバイオマーカー、マウスモデル開発-」の特別講演では、特に高齢の入院患者さんでよくみられるせん妄について臨床から基礎研究まで詳しく研究結果を提示して頂きました。

新規脳波デバイスによるせん妄検出と予後予測法の開発:せん妄は特に高齢の入院患者において頻度が高く、高い合併症の発生、入院日数の長期化(+7-8日)、高い死亡率(発症後1年40%死亡)、施設入所率の上昇、医療費の増大など予後が不良であることがしられているが、Confusion Assessmennt Method(CAM)やDelirium Rating Scale(DRS)などのスクリーニングツールは時間がかかり現場で感度がおちることが知られており、診断や予測が難しく治療につながらないケースもみられる。整形外科手術患者、高齢一般内科患者計1307名に対しEEGシグナル(Bispectral EEG; BSEEG)を短時間測定したところ、感度、特異度とも80%前後でせん妄を検出することに成功し、せん妄発症前から特徴的な徐波が検出できることから、入院日数、特に生存率などの患者予後の予測もできるようになった。

エピジェネティクスによる病態解明とバイオマーカーの開発:近年の研究により、せん妄の病態として神経炎症、すなわち炎症性サイトカイン上昇を伴う生体の免疫反応が脳に影響を与えることが明らかになってきた。脳での免疫炎症反応を担うグリア細胞、特にミクログリアは感染や炎症に対する反応として過剰なIL-1β、IL-6、TNF-αなどのサイトカインを産生、放出し、認知障害などの症状をもたらすことが報告されるようになった。演者のグループは加齢による後天的なDNAメチル化がサイトカイン遺伝子の転写に影響を与えてるのではないかとの仮説をたて、せん妄患者43人と非せん妄患者44人のサイトカイン遺伝子のDNAメチレーションをイルミナ社450K/EPICアレイで比較したところ、せん妄患者でDNAメチレーションが減少することによりTNF-α遺伝子の発現が増加していたことを明らかにした。

せん妄モデルマウスにおけるせん妄重症度のBSEEGによる定量化:<時間切れで省略>

明日からも最新の知見を当院通院患者さまへお伝えしていきたいと思います。(つづく)

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