症状・治療について
クエスチョンカード
[2023.09.13] イフェクサーSRシンポジウム参加


2023年7月15日に福岡で開催されたイフェクサーSRシンポジウムに参加しました。

講演1は福岡大学医学部精神医学教室講師衛藤暢明先生により「自殺予防外来・自死遺族専門外来について」では症例を交えて福岡大学での自殺専門外来の取り組みが紹介されました。多くは自殺予防だけでなく、残された自死遺族についても専門外来でフォローされ、目の前の患者さんは当然として、自死遺族にも寄り添う形を目指しておられます。これらの取り組みから一人でも多くの患者さんの自殺予防に繋げたいとのことでした。

講演2は杏林大学医学部精神神経科学教室准教授の坪井高嗣先生により「異質性・多様性に富むうつ病の当事者をどう支援していくべきか」では、異質性・多様性に富む患者さん当事者の望むリカバリーを目指し、なんらかの尺度を用いて残遺症状に注意し、再発を押さえながら寛解を目指し、当事者の求めるパーソナルリカバリーの改善が最も重要であるとのこで、そこに向けての取り組みが紹介されました。

明日からも最新の知見を当院通院患者さまへお伝えしていきたいと思います。

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[2023.08.01] 第442回広島精神神経学会参加


2023年7月8日、第442回広島精神神経学会へ参加しました。この学会もコロナ禍ではオンラインでの参加ばかりでしたが、久しぶりに現地開催に参加でき、同門の先生ともお会いすることができました。

一般演題のセッションでは若手の先生方より興味深い症例の報告がいくつかありました。呉医療センター精神科の長尾崇弘先生による「怠薬により手首と舌の自傷に至った統合失調症妊産婦の一例」では、妊娠により抗精神病薬を怠薬するようになり、自傷行為が続くため同院で入院治療を行った20代の統合失調症患者についての報告でした。精神疾患を合併した妊産婦の診療ガイドラインでは抗精神病薬による胎児の有害事象の増加や児の神経発達の遅れがあるという明確なエビデンスはないとされており、アリピプラゾール内服と疾病教育、内服の必要性を繰り返し説明することによって自傷行為はみられなくなったそうです。妊産婦に対する抗精神病薬の使用についての詳しい説明もありました。

広島市立舟入病院小児心療内科の池尻直人先生による「母との儀式行為を主症状とする強迫性障害男児の1例」では、弟の誕生や引っ越しのストレスから円形脱毛症や放尿、不潔恐怖や儀式行為が見られるようになった小学校中学年男児の報告でした。治療法として認知行動療法による確認行為を1日20回までに指導したり、精神力動的なアセスメントを通して、患児が幼少期から抱いていた母子関係をめぐる弟への葛藤や頻回の引っ越しに伴う母の苦悩、母の育児方針などが明らかとなり、それらが症状形成の背景にあると想定されました。脱毛・放尿では母の心を動かせなかったと感じ、もっと甘えたいとの欲求が確認行為を助長したと考えられ、母の理解と対応を引き出すことで患児の確認行為も減っていったとのことでした。

特別講演は「行政的な視点から見た広島の精神医療・福祉」をテーマに2題の講演がありました。前広島県立総合精神保健福祉センター所長の佐伯真由美先生より、「精神保健福祉センターの役割~精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築に向けて」の講演がありました。「保健」とは疾病の予防、早期発見早期治療、健康の保持増進することであり、「福祉」とは最低限の幸福と社会的援助を提供することであり、精神保健福祉センターはそれらを中心に活動する行政機関です。精神保健福祉センターは精神保健福祉法により都道府県及び政令市に1カ所設置を義務付けられた行政機関であり、精神医療審査会や自立支援医療・精神障害者保健福祉手帳審査会等の法定業務と並び、依存症やひきこもり等の複雑困難ケースの直接相談や、メンタルヘルス問題を抱える方々を地域で支援している方々のスキルアップや事例相談も行っています。令和4年精神保健福祉法の改正では精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築に向けて、従来に増して市町村の役割が重視されるようになり、多くの市町村を抱える「都市型県型」の精神保健福祉センターは保健所と協働して市町村へのバックアップを一層推進することが求められています。広島県は面積879㎡、人口282万人、政令都市の広島市、中核都市の呉市、福山市やその他の23市町があります。1950年精神衛生法が施行され、1987年に精神福祉法、1995年に精神保健福祉法と法律が改正され、その他、2003年発達障害、2006年自殺対策基本法、2013年にアルコール依存症、2016年にギャンブル依存症、2023年には認知症基本法が制定されています。

前広島市精神保健福祉センター所長の皆川英明先生より「広島市精神保健福祉センターの歴史と地域における役割について」では、広島市精神保健福祉センターは平成に入ってほどなく組織改編を受け、現在の富士見庁舎内に位置することになり、診療機能とデイケアを有することになったのは、精神分析センターを補完するという側面もありました。平成2年広島大学精神医学教室の3代目に就任した山脇教授が訴えておられたBio-Psych-Socialという3本の柱のPsychoの要として改変後の初代所長として衣笠隆幸先生が着任された。衣笠先生は広大医学部卒後県立広島病院で研修を終え、イギリスへ8年間留学され、東京でクリニックを開業していたが、山脇教授の推薦で平成5年~26年まで所長を務められました。平成27年からは皆川先生、令和4年からは朝枝先生が所長を務めておられます。広大精神科教室OBの故赤松先生の高価な絵画が多数飾られており、待ち合いや診察室の雰囲気をよくしてくれています。

明日からも最新の知見を当院通院患者さまへお伝えしていきたいと思います。
[2023.07.01] 第38回日本老年精神医学会春季大会参加


2023年6月17-18日、第38回日本老年精神医学会春季大会へ参加しました。コロナ禍ではオンラインでの参加ばかりでしたが、久しぶりに現地開催に参加でき、発表者や質問者の熱気が伝わってきました。「アルツハイマー病疾患修飾薬の社会実装をめぐって」のシンポジウムでは東京大学大学院医学系研究科神経病理学の岩坪威先生による「アルツハイマー病疾患修飾薬の実用化を踏まえた今後の認知症医療の展望」や他の4人のシンポジストの発表があり、アルツハイマー病疾患修飾薬の開発の経過や現状についてわかりやすく説明されました。

アルツハイマー型認知症の患者さんの死後脳を調べるとアミロイドβ蛋白という異常タンパクが高率に沈着していることから、2000年ごろよりアメリカでアミロイドβ蛋白を分解除去するような抗アミロイド抗体を治療薬とする大規模臨床観察研究AD Neuroimaging Initiative (ADNI) が行われました。日本でも2007年からJ-ADNIが実施され、537例のMCI(軽度認知機能低下)が登録・追跡され、MRI検査やアミロイドPET検査などの評価体制も全国的に確立されました。2023年にはアミロイドβ抗体医薬であるレカネマブがアメリカで迅速承認され、日本を含むグローバル第3相試験も終了し、本邦でもPMDAにより審査が行われているところです。実用化に長い年月を有した原因として、抗アミロイド抗体によるARIA (amyloid-related imaging abnormalities) と呼ばれる副作用があり、抗アミロイド抗体投与開始後比較的早期(3か月前後)におこることが多く、頭痛、錯乱、めまい、視野障害などが見られ、稀に死亡例もあります。ARIAとは脳浮腫や脳溝滲出液によるARIA-Eと、微小出血や脳表ヘモジデローシスが見られるARIA-Hがあり、脳血管アミロイド沈着との関連が原因と考えられており、アポE4保有者、治療前から多数の微小出血が認められる例、抗凝固薬や抗血小板薬使用例に多く見られ、定期的な頭部MRI検査によるモニタリングが必要です。治療としてはステロイドパルス療法や血漿交換療法、さらに症状に応じた治療(抗けいれん薬など)などが検討されます。

最後に大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室の池田学教授より、「認知症の精神科医療への影響と今後の展望」と題してアルツハイマー病の疾患修飾薬が上市された場合の精神科医の心構えや準備についてお話がありました。精神科医はアルツハイマー病の病態機序、各種バイオマーカー、疾患修飾薬の標的分子や期待される効果・限界・予想される副作用、副作用のモニタリングなどを熟知しておく必要があり、実臨床での投与が始まった場合はすでに注目されているARIA以外の副作用も慎重にモニタリングを続けること、MRIやアミロイドPETがある施設との連携、スクリーニング・診断・薬剤投与体制を連携機関との間で予め十分に協議しておくことも必要です。またアルツハイマー病疾患修飾薬はMCI段階から開始されるため、疾患の進行過程や予想される症状などの正確な告知ができるようになっておくことが重要で、治療中の不安や抑うつに対する精神的ケアも重要です。更には、疾患修飾薬の適応とならない患者さんや家族について、早期絶望に繋がらないように寄り添い、他の治療選択肢を提示し、議論を重ねて当事者が納得する支援を続けられるかが、精神科医としての力量を問われるところではないだろうか、とのことでした。

明日からも最新の知見を当院通院患者さまへお伝えしていきたいと思います。

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[2023.06.01] 第62回中国・四国精神神経学会総会参加②


(つづき)2022年11月19日、第62回中国・四国精神神経学会総会へ参加しました。興味深かった講演などをご紹介します。

医療法人山口病院副院長・日本栄養精神医学研究会会長の奥平智之先生による「栄養精神医学における亜鉛~メンタルヘルスは食事から~」のランチョンセミナーでは、生体内での亜鉛の役割や欠乏時の精神症状の出方、治療方法などを教えて頂きました。

生体内での亜鉛の役割:食べたたんぱく質から幸せホルモンと言われるセロトニンや睡眠ホルモンであるメラトニンを作る際、ビタミンB、D、鉄、マグネシウムとともに亜鉛が必要であり、ストレスから発生する活性酸素を解毒するSOD(スーパーオキサイドディスムターゼ)を強化したり、抗炎症作用、抗酸化作用のあるビタミンDを活性化させるなど、様々な役割があります。亜鉛が欠乏すると、味覚や嗅覚が鈍くなる、ネックレス等で皮膚炎になる、倦怠感、やる気がでない、爪に白い斑点がある、髪の毛が抜けやすい、風邪を引きやすい、傷の治りが悪い、加工食品やアルコールをよく取る、などの栄養チェックリストもあり、臨床現場では血液検査、爪や皮膚の診察、食事日記などで亜鉛不足を診断していきます。

亜鉛と精神症状:抗うつ薬と併用して1日25㎎の亜鉛を摂取していると、エビデンスグレードAで大うつ病性障害に有効性が認められ、うつ症状スコアを有意に改善させたり、抗うつ薬が少量で済んだり、睡眠が改善するなどのエビデンスが出ている一方、高齢者のうつ病患者で血清亜鉛濃度が低下していたり、刑事統合失調症男性の血中亜鉛が被犯罪者と比較して優位に低かったり、加害的な若い男性の血中銅/亜鉛日が高い、などのデータも見られます。

明日からも最新の知見を当院通院患者さまへお伝えしていきたいと思います。

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[2023.05.01] 第62回中国・四国精神神経学会総会参加①


2022年11月19日、第62回中国・四国精神神経学会総会へ参加しました。興味深かった講演などをご紹介します。特別講演1はStanford大学の篠崎元先生による「せん妄の臨床・脳科学へのブレークスルーを目指して-新機能はデバイス、エピジェネティクスバイオマーカー、マウスモデル開発-」の特別講演では、特に高齢の入院患者さんでよくみられるせん妄について臨床から基礎研究まで詳しく研究結果を提示して頂きました。

新規脳波デバイスによるせん妄検出と予後予測法の開発:せん妄は特に高齢の入院患者において頻度が高く、高い合併症の発生、入院日数の長期化(+7-8日)、高い死亡率(発症後1年40%死亡)、施設入所率の上昇、医療費の増大など予後が不良であることがしられているが、Confusion Assessmennt Method(CAM)やDelirium Rating Scale(DRS)などのスクリーニングツールは時間がかかり現場で感度がおちることが知られており、診断や予測が難しく治療につながらないケースもみられる。整形外科手術患者、高齢一般内科患者計1307名に対しEEGシグナル(Bispectral EEG; BSEEG)を短時間測定したところ、感度、特異度とも80%前後でせん妄を検出することに成功し、せん妄発症前から特徴的な徐波が検出できることから、入院日数、特に生存率などの患者予後の予測もできるようになった。

エピジェネティクスによる病態解明とバイオマーカーの開発:近年の研究により、せん妄の病態として神経炎症、すなわち炎症性サイトカイン上昇を伴う生体の免疫反応が脳に影響を与えることが明らかになってきた。脳での免疫炎症反応を担うグリア細胞、特にミクログリアは感染や炎症に対する反応として過剰なIL-1β、IL-6、TNF-αなどのサイトカインを産生、放出し、認知障害などの症状をもたらすことが報告されるようになった。演者のグループは加齢による後天的なDNAメチル化がサイトカイン遺伝子の転写に影響を与えてるのではないかとの仮説をたて、せん妄患者43人と非せん妄患者44人のサイトカイン遺伝子のDNAメチレーションをイルミナ社450K/EPICアレイで比較したところ、せん妄患者でDNAメチレーションが減少することによりTNF-α遺伝子の発現が増加していたことを明らかにした。

せん妄モデルマウスにおけるせん妄重症度のBSEEGによる定量化:<時間切れで省略>

明日からも最新の知見を当院通院患者さまへお伝えしていきたいと思います。(つづく)

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